mommapapaの父の言の葉

日本語と暮らしと子育て雑記

歌うたいの唄

 東急百貨店本店を訪れた帰り、エレベーターホール辺りから、耳に残るゆっくりとしたメロディーが聞こえてきた。

「ああ、なんか聞いたことがあるな」

聞いたことがあると同時に、この曲は好きだな、そんな感情がこみあげてきて、正面玄関の脇に並んだ小さな肘掛け椅子に腰かけて、しばらく曲を確かめていた。

確かに聞いたことがある曲なのに、いつの時代の誰が歌っている曲なのか分からない。

歌詞も、ほんのわずかなサビの部分しか思い出せない。

「・・・歌うたいは唄うよ・・・」

ずっと聴いていたい、そんな思いに引かれながら家路につく。

本当のことは歌の中にある
いつもなら照れくさくて
言えないことも

今日だってあなたを思いながら
歌うたいは唄うよ
ずっと言えなかった言葉がある
短いから聞いておくれ
「愛してる」

歌うたいのバラッド/作詞:斉藤和義

1997年か。

ちょうど僕が会社を辞めようかと思っていたころだ。

大学は誰にも相談せずに辞めてしまったけれど、会社は辞めなかった。

3年は続けてみろと言った、兄のアドバイスを聞き入れたからだ。

会社を辞めようと思ったのは、大学を辞めた時と同じで、くだらないと感じたから。

くだらない世の中。

でも辞めなかった。

辞めなかったのが正解かどうかは分からない。でも人生に正解なんてないだろう?

今は愛すべき家族がいる。

それが僕の正解であっても、今は何ら後悔はしない。

だってそうだろう?

今はそれが、僕に生きる意味を教えてくれるから。

くだらない世の中の、意味のある存在。

そんなものがあるなんて、なんだかすごいことじゃないか?

21歳の夜、学生でもなく、働くでもないブラブラしていた僕が、下北沢のコンビニの前で将来を思って恐怖に心震えたあの日のことを、今も覚えている。

だから僕は言葉を紡ぐよ。

まだ先の見えない誰かのためにね。